当時僕が滞在していた定宿に、やはり常連客の日本人がいた。彼もタイが好きで、毎年数ヶ月を北タイで過ごしていた。
タイ語は殆どできなかったが、いつも笑顔でいるので、現地の人からは「ケンちゃん」と呼ばれて慕われていた。タイ人は、いつも機嫌良く振る舞う人を好む。
ケンちゃんと僕がよく通う食堂では、ヌンちゃんという若い女性が働いていた。彼女は離婚歴があり、まだ幼い二人の子持ちでもあった。
二人の様子から、ともに好意を抱いているのは良く伝わってきた。
ある日、ヌンちゃんから恋の橋渡しを頼まれることになった。作戦はこうだ。僕がケンちゃんを誘ってナイトバザールに遊びに行く。ヌンちゃんも偶然(ここが大事)そこに居合わせる。3人で食事をした後、僕がさりげなく席を外す。
そして当日、事は順調に進んだ。
翌日、早速ヌンちゃんから報告を受けた。こんなやり取りがあったと言う。
「ケンちゃんは、ヌンの息子のことを愛するか?」
「うん、愛する」
「ケンちゃんは、ヌンの娘のことを愛するか?」
「うん、愛する」
「ケンちゃんは・・・(ちょっと間を置いて)ヌンのことを愛するか?」
「うん・・・愛する」
二人は見つめ合いながら、しっかりと手を握り合ったそうだ。ちなみに、二人の年の差は、二まわり以上だった筈だ。
恋の橋渡し役を務めた僕は、特にヌンちゃんに感謝された。
その数ヶ月後、ケンちゃんとヌンちゃんは、タイ式の結婚式を挙げて、隣の県に引っ越していった。