1983年のことだったと思う。
チェンラーイの街を散策していると、アジア系の旅人に声を掛けられた。
「この本に載っている、街一番のスイーツの店を探しているんだけど…」
彼の手にしたロンリープラネットのガイドブックには、地図もあった。
「この店らしいんだけど、それにしてはちょっと貧弱なんだよ」
言いながら、旅人は両手を軽く広げて、苦笑している。
確かに該当する場所には店はある。間口4メートル、主に麺を食べさせる店だ。とてもじゃないが、街一番のスイーツの店には見えない。
でも良く見ると、店の片隅には、ココナッツミルクの甘味も用意されている。麺を注文した客が、食後のデザートとして食べるのだろう。
結局、この店に間違いなかろうと、誘われるまま二人で入店。折り畳みテーブルと丸椅子の席に着いた。
街一番のスイーツは、果物と寒天にココナッツミルクを掛けた、普通に市場でも食べられるようなものだった。
その旅人は、香港から来たと言う。ほぼ同年齢ということもあって話しが合い、旅の情報交換や自国の話題などで盛り上がった。スイーツはともかく、こんなひと時が旅の醍醐味でもある。
香港が大変な今、彼は何処にいて、どんなことを考えているだろうか。
(画像は本文とは関係ありません)