話は、チェンラーイに、この金ピカ時計塔ができるずっと前のことになる。1993年頃だったか、とにかく乾季(寒季)のことだった。
メーコックビラには、僕の他に、Wさんという日本人が泊まっていた。彼は飄々とした好人物で、滞在時期が重なると、よく行動を共にする仲だった。そのWさんが、或る日、
「チェンライパッポンで水浴びショーをやってますよ」
チェンライパッポンとは、時計塔近くの脇道にあるバー街のことだ。山からの出稼ぎの娘が多く、もちろん本場のバンコクパッポンほどの派手さはない。
「水浴びって言っても、どうせ水着でも着てるんでしょう?」
「いやいや…」
「まさか、スッポンポンですか?!」
Wさんは答えずに、ニヤニヤ笑っている。
それでは、ということで、その晩にいざ出陣と相成った。スッポンポンよ、待っていろ。
ショータイムに合わせて、目的の店に突入する。
店内には、10人ほどのホステスがいる。何れも10代後半だろうか。そして、確かに、店の奥にはガラス張りシャワー室が用意されている。僕たちの席は、このシャワー室の近く、かぶり付きの特等席だ。もうすぐ、この妙齢さんたちのスッポンポンが見れるぞ。
ところが、ところが、一向にその気配が感じられない。
「Wさん、まだですかね?」
彼は「う〜ん」と唸って、腕組みをしたままだ。
たまらずに、店を仕切っているお姉さんに聞いてみた。
「水浴びショーは何時から?」
「今日はないのよ。寒いからね」
あっさりと言われてしまった。
後日談。
改めて出掛けた日、確かに水浴びショーはやられていた。他に、火の付いたロウソクから垂れるロウを身体で受け止めるロウソクショーなどというものも、見物することができた。
そして現在は、チェンライパッポンと呼ばれたこの地域は大きく様変わり。もちろん、全くその手の店はなくなってしまった。